誰もが一度は、「もしあのとき別の選択をしていたら、今の自分はどうなっていただろう?」と考えたことがあるのではないでしょうか。あの瞬間の「Yes」か「No」で、人生の道筋はガラリと変わっていたかもしれない。そんな“もしも”の世界が、本当に存在するのだとしたら——それが「パラレルワールド」と呼ばれるものです。
この不思議な概念は、昔から小説や映画、アニメなどでも頻繁に扱われてきました。しかし、近年では科学や心理学の一部でも注目されるテーマとなっており、「夢の話」では済まされない奥深さを持ち始めています。今回はそんなパラレルワールドについて、行き方の考察や実際に語られる体験談、科学的背景までを掘り下げながら、あなたと一緒に思考の旅をしてみたいと思います。
まず、パラレルワールドとは何かをあらためて考えてみましょう。日本語では「並行世界」と訳されるこの言葉は、私たちが生きている現実とは別に、似て非なる世界が同時に存在しているという考え方に基づいています。ポイントとなるのは、「分岐点」です。たとえば、今朝あなたがコーヒーではなく紅茶を選んでいたら?会社に行く道で、違う角を曲がっていたら?その一つひとつの選択が、異なる世界を生み出しているというのが、パラレルワールドの基本的な発想です。
では、そんな世界に「行く」ことは本当にできるのでしょうか?
実は、世界中には「行けたかもしれない」と語る人々の体験談が数多く存在しています。もちろん、科学的な証明はなされていませんし、夢や幻覚、記憶の錯誤で説明できる部分もあるでしょう。しかし、それでもなお、彼らの語る世界は私たちの好奇心をかき立てずにはいられません。
よく挙げられるのが「エレベーター」にまつわる話です。ある女性は、ビルの10階から1階に降りるためにエレベーターに乗ったものの、途中で突然真っ暗な空間に閉じ込められたといいます。不安と恐怖のなかで、唯一差し込んできた微かな光を頼りに進んでいくと、ふいに気がつけば再び1階のロビーに立っていた。外に出ると、見慣れたはずの風景がどこか違って見えた——道路の標識が別の言語になっていたとか、友人の性格が微妙に異なっていたというような話もあり、「あれは別の世界だったのではないか」と彼女は振り返ります。
一方で、もっと身近な形で「異世界」を感じる人もいます。たとえば夢の中。ある男性は、何度も見る夢の中で「もう一人の自分」に出会い、その彼がまったく違う人生を送っていたことに衝撃を受けたと語ります。その夢の中で、彼は教師ではなくバンドマンとして活動しており、結婚相手も違う。起きた後もその記憶は鮮明で、「もしかすると、これは単なる夢じゃなく、もう一つの世界を垣間見たのかもしれない」と感じたそうです。
こうした話には共通点があります。それは、「本人の感覚では確かに違う世界に触れたという実感がある」ということ。これは単なる錯覚と切り捨てるには、あまりにも“体験としてのリアリティ”が強すぎるのです。
そして、パラレルワールドへ行く方法として語られる手段は、実にユニークです。
一つは、トンネルや橋といった「境界」を越える行為。古今東西、物語のなかではこうした場所が“異世界への入り口”として描かれてきました。トンネルの途中で急に周囲の雰囲気が変わり、抜けた先に違う空気を感じた経験がある人も少なくないかもしれません。
また、特定の“儀式”を通じてパラレルワールドにアクセスしようとする試みもあります。有名なのは「紙に六芒星を描き、その中心に“飽きた”と書き、枕の下に敷いて寝る」というもの。この行為には“現実に飽きた”という強い意志を込めることで、意識が別の世界に向かいやすくなるという考え方が背景にあるようです。
さらには、「意識の変容」を通して行くという考え方もあります。瞑想や深い自己暗示を用いて、現実とは異なる選択をした“もう一人の自分”とつながる——これは心理学やスピリチュアルの世界でも一定の理解があり、「量子意識」という言葉で語られることもあるほどです。
こうした話を“まゆつば”と感じる人もいるでしょう。でも、少し立ち止まって考えてみてください。もし本当に、私たちの一つひとつの選択が世界を分岐させているのだとしたら——そしてその先に別の自分が生きている世界があるのだとしたら——それは、人生を見つめ直す大きなヒントになるのではないでしょうか。
たとえば、「今の自分に不満がある」と感じたとき、「じゃあ、別の選択をしていた自分ならどうしていただろう?」と想像してみる。これだけでも、今いる場所とは違う視点を持つことができます。実際、心理療法の一つに「スライディングドア・テクニック」という手法があります。これは、「もしあのとき別の扉を開いていたら?」という思考実験を行うことで、自分の無意識の望みや価値観を明らかにしていくもの。パラレルワールドは、単なる幻想ではなく、私たちの心に“もう一つの可能性”を見せてくれる存在とも言えるのです。
最後に、少し科学の話もしておきましょう。量子力学の世界では「多世界解釈」という理論があります。これは、宇宙の中で何かが起こるたびに、その出来事のすべての可能性が実現するため、宇宙自体が分岐していくという考え方です。この理論に従えば、あなたが笑った世界も、怒った世界も、何も言わずにその場を離れた世界も——すべてが同時に存在していることになるのです。
少し難しく聞こえるかもしれませんが、この考え方にはロマンがあります。なぜなら、「どんな選択をしても、それは一つの世界を創造することに他ならない」と考えることができるから。過去の選択を悔やむのではなく、そのときそのときの選択が、自分なりの“世界”をつくっているのだと思えば、少し気が楽になるのではないでしょうか。
私たちは一つの現実を生きています。でも、そのすぐ隣には、私たちがまだ知らない無数の「もう一つの現実」が広がっているのかもしれません。パラレルワールドは、その可能性の扉を静かに開いてくれる存在なのです。
——さて、あなたはどの扉を選びますか?